職業教育
− 成瀬政男・梅原猛・ピータードラッカー −
職
業訓練大学校(訓大)を卒業して直ちに助手として採用され、その後、職業教育に50年近く携わってきました。そのためでしょうか、今後、益々労働人口が減
少するなか我が国のものづくりを担う若年者への実践的な職業教育の重要性を実感しています。間違えば、我が国の産業基盤が崩壊し、ものづくりを次の世代に
継承できなくなってしまうかもしれないと危機感すら覚えます。そのようななか、実践教育訓練学会は、職業教育に関する先駆的な学術団体として社会に認めら
れ、今後更に社会への貢献が大いに期待されています。そして、この度、本学会会長に就任させて頂きましたこと大変身に余る光栄であるとともに身が引き締ま
る思いでおります。今後、会員ならびに賛助会員の皆さま方のご協力とご支援によって少しでも実践教育訓練学会の発展と産業界に寄与したいと願っておりま
す。つきましては会員および賛助会員の皆さま方には宜しくお願いします。 さて、半世紀もの長きに亘って、職業教育に携われることができたのは、3人の偉大な先生方の教えがあったからだと思っています。そこで、先生方の職業教育 への思いを、一つのキーワードで次に記し会長就任の挨拶とさせていただきます。 |
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科学・技術・技能(成瀬政男先生) 職業訓練(職業教育)に関係する私たちにとって1958年は、労働省がはたらく人々の地位を高め、産業を発展させるために、職業訓練の立法化がなされた 記念すべき年です。そして、1961年には、東京都小平市に職業訓練に係る調査や研究ならびに職業訓練指導員育成のために中央職業訓練所が開所され成瀬政 男先生が所長として着任されました。成瀬先生は、科学の応用を技術といい、技能は物をつくる能力であるとされました。この技能が職業として成り立つために は、人間の五体(頭・両手・両足)だけでなく機械や工具、測定器などを使って、より早くより安く、より大量につくる能力にまで高めなければならないとし、 医学部の基礎と臨床の関係になぞらえることができると述べられています。さらに、成瀬先生は、技能は物をつくるわざであるが、手先の器用さだけではだめ で、頭の働きが無ければならない。つまり、学校で教えられる(頭で理論を考える)科学、科学の応用としての技術、教室では教えられず体で覚える(技能)、 これら3つ『科学・技術・技能』を一体として身につけた人材が、今後必要で訓大がその人材育成の場とすると考えられました1)。 その後、中央職業訓練所は、職業訓練大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発総合大学校へと校名が変わるとともに所在も小平市から相模原市、相模原市 から小平市へと移転を繰り返しました。名や所在が変わっても、我が国唯一のものづくり分野の職業訓練指導員の養成・研修等を使命として今日に至っていま す。 知行合一(梅原猛先生) 1980年代、急速な円高を背景に国内の生産拠点は人件費の安い海外へと工場移転が進み国内製造の空洞化が顕在化しました。そこで、ものづくりを基盤とす る産業の重要性を見直すために1999年ものづくり基盤技術振興基本法が制定され、2000年には「ものつくり大学」設置の取り組みへの支援と人材育成の 積極的活用のため、「ものづくり基盤技術基本計画」が策定されました。それに基づき、ものづくりに対する社会的評価の向上と社会に貢献することを使命と し、高度な技能と技術を融合した実践的な教育および研究を行うとともに豊かな社会性・創造性・倫理性を身につけた技能技術者を育成することを目的にして 2001年4月に「ものつくり大学」は開学し、哲学者として著名な梅原猛先生(初代総長)によって大学名が命名されました。 梅原先生は「知行合一」すなわち理論と実践の融合を唱えられ、ものつくり大学の教育の柱となっています。また、校歌も梅原先生の作詞ですが、その一節に 「身と心 一つなる にゅうものつくり」という歌詞には、伝統の継承とともに新しいものつくりを、そしてそれを通じて世直しをする。との気概が込められて います。 テクノロジスト(ピータ・F・ドラッカー先生) ものつくり大学の英語名Institute of Technologists(IOT)は、米国クレアモント大学院教授であった、故ピータ・F・ドラッカー先生によって名付けられ、単に理論がわかるだけ でなく、高度な技術・技能の腕も併せ持っているテクノロジストを育成する大学であるとされました。さらに「きわめて多くの知識労働者が知識労働と肉体労働 の両方を行うようになり、そのような人たちをテクノロジストと呼び、このテクノロジストこそ、先進国にとって唯一の競争力要因である」2)と記されていま す。 今後さらに、「先進国の一員であり続けたいのならば、ものづくりから離れるなど、もってのほかである。純粋の知識労働者を持つだけでは、最先端を進むこ とは不可能であるからだ。」、「テクノロジストについて体系的で組織だった教育が行われているのは、ごくわずかの国でしかない。したがって、今後数十年に わたり、あらゆる先進国と新興国においてこのテクノロジストのための教育機関が急速に増えていく」とも述べられています。 このように、当代一流の教育者、哲学者および社会生態学者が声をそろえて、単に理論がわかるだけでなく、高度な技術・技能の腕も併せ持った人材が社会から 大いに期待されていると述べられています。実践教育訓練学会においても時代の要求にあった、学会として会員の皆様方の英知を結集して我が国の職業教育の一 翼を担ってまいりましょう。 注1)歯車と私 成瀬政男 成瀬政男先生喜寿記念出版会 1976 注2)明日を支配するもの−21世紀のマネジメント革命 ピータ・F・ドラッカー 上田惇生(翻訳) ダイヤモンド社 1999 |
■ 実践教育訓練学会の目的
法人名:一般社団法人 実践教育訓練学会(略称:SPTE)
英文名:The Society For Practical Technology Education
目的
21世紀の「ものづくり」をになう技能・技術者の育成のため、産・学の連携のもと、「実践教育訓練」の普及と向上に向け、組織を拡充してさまざまな活動を 進めています。
学会の詳しい説明はこちら
ご案内用パンフレット(PDF)
実践教育訓練学会の沿革と実践研究発表について(PDF)
英文名:The Society For Practical Technology Education
目的
21世紀の「ものづくり」をになう技能・技術者の育成のため、産・学の連携のもと、「実践教育訓練」の普及と向上に向け、組織を拡充してさまざまな活動を 進めています。
学会の詳しい説明はこちら
ご案内用パンフレット(PDF)
実践教育訓練学会の沿革と実践研究発表について(PDF)