建築・デザイン系

第16回 木造研究部会

「サスティナブルコミュニティの実現〜荻浦ガーデンサバーブ(糸島市)〜と
辰野金吾の故郷、唐津を訪ねて」

 

開催日時  平成24年10月20日(土) 13:00 〜 21日(日) 15:00
開催場所  福岡県糸島市&佐賀県唐津市
荻浦ガーデンサバーブ(糸島市) 旧唐津銀行本店 内部(唐津市)

参加者(7名)
定成(職業能力開発総合大学校東京校)
亀山(香川県立高等技術学校丸亀校)
余傳(宮崎職業能力開発促進センター)
古野(GAIA 大阪市)
松尾(大分県立工科短期大学校)
磯野(九州職業能力開発大学校)
田島(九州職業能力開発大学校)


1. 荻浦ガーデンサバーブ(企画・基本設計:戸谷英世、実施:株式会社 大建)を訪れて
写真-1 地下にある部屋 写真-2 松尾社長のお話を聞く
写真-3 地下水を組み上げるホンプ 写真-4 ガーデンサバーブ前の集合写真

 この荻浦ガーデンサバーブは、欧米で実現されている「住宅を持つ」=「資産形成できる」住宅地を日本で実現したいという思いから開発されました。 日本は、世界有数の経済大国でありながら、生活の豊かさを感じられないとも言われています。 原因として、生活費に重くのしかかる住宅ローン。 そして、一生をかけてやっとの思いで購入したマイホームがローンの残高以下の価格でしか取引されないという現実もあります。

 自分の住んでいるまちに誇りが持てず、約30年で壊されていく住宅。 このような問題に対し、たくさんの解決策が詰まっています。

 欧米で成功している住宅地の良い要素を取り入れ計画・設計されています。 端的に言えば、住宅、住宅地としてのハードな部分と、コミュニティ形成につながる住まい方の仕組みであるソフトの部分を併せもつ実験住宅地でもあります。 下記のサイトをご覧いただくとともに詳しくは、ジャーナルにて紹介したいと思います。
 http://oginoura.com/  (荻浦ガーデンサバーブ ホームページ)
 http://oginoura.com/media/post_1753.html(日経ホームビルダー掲載記事)

 


2. 唐津城
 唐津は、リニューアル(2012.10.1)で注目を浴びた東京駅を設計した辰野金吾をはじめ、同じく工部大学校1期生の曾禰達蔵、少し時代をおいて村野藤吾を輩出したまちでもあります。

 また、このまちには、唐津鉄鋼という会社があり、この会社の資金で、早稲田大学の理工学部ができたとも言われています。その唐津市のシンボルが唐津城です。 私たちの、宿泊した宿からも近く海を見下ろせる高台にありました。 夕暮れになるとライトアップされ、その美しさが際立ちます。

 


3. 親睦
 高木旅館は、すべての部屋がリバーフロントとなっており、海に注ぐ松浦川の河口に面しています。 リーズナブルな宿泊費でありましたが、食事の質は高く満足のいくものでした。 また、「太閤」という清酒があるところは、明日見学する名護屋城と豊臣秀吉ゆかりの地であることを、思わせます。
写真-5 ライトアップされた唐津城 写真-6 高木旅館の前にて

 


4. 旧三菱合資会社唐津支店本館(現在:唐津市歴史民俗資料館)(顧問:曾禰達蔵、設計:三菱丸の内建築所)
 2日目の朝、名護屋城へ向かう途中で、旧三菱合資会社唐津支店本館を外から見学しました。 現在は、休館中で内部は見ることができませんでしたが、ファサードは洋風でまとめられていますが、側面は入母屋風の屋根を構成するなど、和風を感じさせる箇所も随所に存在する擬洋風建築です。 工部大学校1期生、曾禰達蔵の携わった建物です。
写真-7 ファサード 写真-8 斜めからのプロポーション

 


5. 佐賀県立名護屋城博物館(前川建築設計事務所)及び 名護屋城跡
 名護屋城は、約400年前、豊臣秀吉が朝鮮出兵のための拠点として築いた城で、その周りには城下町が形成されていました。 名護屋城博物館には、当時の屏風絵をもとに作成された模型が展示されています。 模型を見ると自然の地形を生かしていることがよくわかります。

 また、安土城、大阪城を経験した秀吉が、晩年築いた城であるということは、興味深く、城をつくるプロセスも含め、いたるところにそれまでのノウハウが生かされていたのであろうと思われます。 現在では、石垣等にその一部を見ることができます。

 模型を見ながら学芸員の方から、秀吉が天下統一後、全国の大名を集結させ、巨大な軍事都市が形成されていった内容の説明を受けました。 ちなみに、大名たちはほとんど単身赴任であったそうです。(笑)

写真-9 県立名護屋城博物館エントランス 写真-10 学芸員から説明をうける
写真-11 名護屋城天守跡地にて 写真-12 海の先は朝鮮半島

 


6. 茶苑「海月」(吉村順三 1994年竣工)
 名護屋城跡地内に吉村順三氏(1997年没)晩年の作品であろう数寄屋建築と茶室があります。 お茶室で、一時のくつろぎの時間を過ごすことができました。

 また、水を循環させた庭は、水の音とともにすごく気持ちの良い空間でした。

 洗練されたフォルムと庭との融合は、日本建築の粋を凝縮した空間といえるでしょう。あらためて日本建築のすばらしさを実感した次第です。

写真-13 茶苑「海月」の茶室 写真-14 茶室にて一服
写真-15 茶苑「海月」 写真-16 水を循環させている庭

 


7. 呼子 鯨組主「中尾家屋敷」(唐津市重要文化財)
 予定にはありませんでしたが、名護屋城博物館で紹介された、鯨組主の中尾家屋敷(江戸期)を見学することとしました。 以前は、この付近にも鯨がたくさん生息していたらしく、鯨を捕獲し巨万の富を築き本屋敷が建てられたとのことです。

 また、佐賀県の呼子といえばイカが有名で、ここで昼食を取ることとしました。 新鮮なイカは透明で、皿の上に出てきたときは、まだ動いていました。 イカ刺し、天ぷら等、美味しくいただくことができました。

写真-17 中尾家屋敷正面図 写真-18 江戸期に描かれた当時の様子
写真-19 独特の軒構造 写真-20 呼子の新鮮なイカ

 


8. 旧高取家住宅 1905年竣工(国指定重要文化財)
 石炭王として財を築いた高取伊好(たかとりこれよし:1850〜1927)の邸宅で、1905年(明治38年)竣工した建物です。 和風を基調にしたもので、邸宅内に能舞台を備えています。 驚きの空間でした。 また、アールヌーボーを意識した洋間もつくられており、高取氏の財力、文化レベルを反映していると思われます。

 唐津は、実践研の石丸前会長の故郷でもあり、この旧高取家住宅の名誉館長をされている田中氏とは、高校時代の同級のご関係とのことです。

 石丸前会長から連絡を入れていただき、田中氏より詳しく丁寧に邸宅内をご説明いただきました。 この場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございました。

写真-21 旧高取家住宅入口 写真-22 説明頂いた田中氏と玄関前にて

 


9. 旧唐津銀行本店(監修:辰野金吾、設計:田中実)
 東京駅や日本銀行など、数々の日本の近代建築を手がけた辰野金吾のふるさとが唐津です。 下級武士の家に生まれましたが、唐津で英語を高橋是清(後の第20代内閣総理大臣)に学ぶとともにバックアップを受け、工部大学校の1期生として入学しました。

 一期生は、イギリス人コンドルから近代建築を学びます。 当時のイギリスは19世紀古典主義の時代で、その特徴が弟子たち(工部大学校1期生:辰野金吾、曾禰達蔵、片山東熊、佐立七次郎)に受け継がれています。

 旧唐津銀行本店(明治45年)は外観は、石とレンガを組み合わせ、アーチを組み込んだデザインとしエントランスはイオニア様式の柱としています。 また内観もすばらしく、格調の高さを感じます。

 辰野金吾(当時57歳)が東京駅の設計中であったため、設計を愛弟子で清水建設に入社していた田中実(当時27歳)に任せ、その思いをデザインに込め(辰野式)完成したと言われています。なお当時の施工、リニューアル(H20〜H22)は清水建設です。

写真-23 旧唐津銀行本店全景 写真-24 ファサード(南面)アーチが特徴的
写真-25 格調のある貴賓室入口上部デザイン 写真-26 貴賓室天井は上品で美しい漆喰仕上

※ 参考:辰野金吾の設計として建築系地域情報Vol. 14でも、ご紹介させていただきました浜寺公園駅(堺市)もあります。

 


10. 小笠原記念館(今井兼次 昭和31年)
 唐津藩の藩主だった小笠原家の菩提寺、近松寺の境内にある展示施設です。 小笠原家ゆかりの美術品や歴史資料などが展示されています。 中でも、徳川将軍直筆の古文書など興味深い展示があります。

 設計は早稲田大学の今井兼次。 早稲田大学の創設者、大隈重信の出身の地であることも影響しているのかもしれません。 欧州に学び、ガウディの日本への紹介者として知られていますが、作風は合理的・機能的なモダニズム建築からは距離を置き、建築に職人の手の技を残す作品が多いといわれています。 建物は、シンプルなデザインでした。

 


11. 基幸庵(大工塾:意匠設計:丹呉氏 構造設計:山辺氏)
 九州大工塾(九州職業能力開発大学校にて2012年度開催)において紹介されまし「基幸庵」。 渡りあご工法を推奨しています。

 「基幸庵」はカフェを併設しており、ここで第16回木造部会のフィナーレとして今後の活動に向けたミーティングを行いました。

 夢は大きく、屋久島へ縄文杉・屋久杉を見学する計画などが話題にのぼりました。 はたして次回はどのような企画が生まれるのか?楽しみです!

文責:田島幹夫
写真:松尾・田島

写真-27 基幸庵全景 写真-28 基幸庵 蔀戸
写真-29 基幸庵の木組み-1 写真-30 基幸庵の木組み-2

 

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