建築・デザイン系

第14回 木造研究部会

 

1. 開催概要

  平成22年7月18日(日)〜19日(祝)福井県小浜市(若狭地方)の伝統建築群を「棟梁とまわる若狭小浜木造建築」と題して第14回木造研究会が開催されました。

 近能大の学生さん6人も含め23名の参加がありました。 両日とも夏の暑さが厳しく、高速道路の無料化の影響で渋滞等の影響もありましたが、若狭地方の伝統社寺建築を熟知された山口棟梁の熱い解説付きで見学ができ大変貴重な内容の濃い見学会になりました。

2. 見学(1)飯盛寺本堂(重要文化財):室町中期

 1日目最初の見学は、小浜市内飯盛山中腹に建つ飯盛寺。

 参道の石階段を登ると姿を現す本堂は、全国的にも珍しい茅葺きの屋根(妻入り)、周りの杉木立と見事に調和した風合いのあるたたずまいの寺院でした。 室町中期の創建ですが、途中何度も再興・再建・改修が行なわれ大正時代の改修工事で当初の茅葺屋根を寄棟の瓦葺きへ改修がされてしまったようです。

飯盛寺本堂外観 飯盛寺本堂外観(桁側)
写真-1 飯盛寺本堂外観 写真-2 飯盛寺本堂外観(桁側)

 その後文化庁の調査に等が行なわれ、平成に入ってから茅葺屋根への再現修復工事が実施され国の重要文化財に指定されるに至っています。 この改修工事に宮大工としての総指揮を執った方が、今回の見学会に同行説明をして頂いた山口棟梁です。

 現場に到着するといきなり本堂の小屋裏に案内され住職に修復工事の概要を解説頂きました。 その後山口棟梁に本堂全体の概要説明をして頂きました。

飯盛寺本堂小屋裏内部 飯盛寺本堂内部での説明風景
写真-3 飯盛寺本堂小屋裏内部 写真-4 飯盛寺本堂内部での説明風景

  自然石の石垣積基壇に建つ本堂は、桁行13.66m(五間)、梁間12.88m(五間)。 単層、寄棟造、妻入、茅葺、四方切目縁の五間堂で、各部の基調は和様を主としています。 入母屋造妻入という形式と、葺材の相違から、この堂の外観は著しく小さく見えるのが特徴です。


3. 見学(2)妙楽寺(重要文化財):鎌倉時代初期
 1日目のふたつめの見学は、若狭地方における最古の様式とされる(鎌倉時代初期)妙楽寺(重要文化財)です。

 住職の概要説明に続き建物の各部の詳細解説を山口棟梁から受けました。

妙楽寺参門 妙楽寺本堂
写真-5 妙楽寺参門 写真-6 妙楽寺本堂

 桁行5間(11.51m)・梁行5間(10.61m)寄棟造桧皮葺で、外陣の天井は化粧屋根裏、内外の陣境に菱欄間と格子戸を入れて区画されています。 外観はゆるやかな屋根の流れは穏やかな雰囲気を漂わせています。

 仏像にも貴重なものが多く、本尊の千手観音菩薩立像は、平安中期の作で、桧材の一木造、頭上には菩薩の顔が三面あり、さらに菩薩面・憤怒面・狗牙上出面・大笑相面21面をいただいています。 実際に千本の手が整然と美しく配されており、長く秘仏であったため、今も黄金色に輝いています。
妙楽寺本堂内部での解説風景 妙楽寺本堂前での集合写真
写真-7 妙楽寺本堂内部での解説風景 写真-8 妙楽寺本堂前での集合写真

4. 見学(3)熊川宿の見学
 1日目最後の見学は熊川宿です。

 江戸時代に鯖街道随一の宿場町として繁栄したこの街道ですが、近代以降、時代の移り変わりで衰退していました。 しかしその結果、古い町並みが残り、1996年に重要伝統的建造物群保存地区に選定されるに至ったようです。 その後、修復が少しずつ実施され古建築を活用した資料館、食事処、喫茶店、雑貨店、また道の駅若狭熊川宿が開設されるなど、歴史的な観光地として注目され始めています。

 ここも山口棟梁の解説で個別の建物、街並み全体の見学ができました。 清らかな水が、流れる水路を挟んで広めの道の両脇に多彩な形式の建物が立ち並ぶ町屋群の特長は、全国にある他の町並保存とは、少し違いがあるようです。

熊川宿1 熊川宿2(紅柄格子)
写真-9 熊川宿1 写真-10 熊川宿2(紅柄格子)

 平入りと妻入りの建物が混在するところも町並みの特徴のようです。

熊川宿3逸見邸(平入り) 熊川宿4(妻入りの民家)
写真-11 熊川宿3逸見邸(平入り) 写真-12 熊川宿4(妻入りの民家)

 最後に、若狭町伝統建造物群保存地区保存審査会委員である吉田桂二氏をはじめ、地元の情熱のある方々の取り組みが、現在の熊川宿をここまで導いていることも付け加えておきます。


5. ふじや旅館での懇親会&勉強会

 宿泊は、「明通寺門前ふじや」。

 きれいな民芸調の味わいの有る宿で、若狭湾で取れた魚介類を中心にした料理に舌鼓を打ちながら山口棟梁を囲んで懇親を図ることが出来ました。

 そしてこの懇親会でも山口棟梁の建築物に対する熱意は止むことはありません。 NHKで2001年に放映され、山口棟梁が出演された『国宝探訪(明通寺)』のビデオ鑑賞をはじめ貴重な資料を基に勉強会は続きました。

宿泊先での懇親会風景 懇親会後の勉強会
写真-13 宿泊先での懇親会風景 写真-14 懇親会後の勉強会
ふじや旅館外観 ふじや旅館前での若女将を囲んでの記念撮影
写真-15 ふじや旅館外観 写真-16 ふじや旅館前での若女将を囲んでの記念撮影

6. 見学(4)明通寺本堂(国宝):
  鎌倉時代中期・三重の塔(国宝):鎌倉時代中期

 2日目最初の見学は、この見学会の目玉でもある、国宝・明通寺の本堂と三重の塔の見学です。

参道からみる明通寺本堂 明通寺本堂外観
写真-17 参道からみる明通寺本堂 写真-18 明通寺本堂外観

 参道の階段から見る本堂のプロポーションは抜群です。 しかし、三重の塔は現在屋根の桧皮葺き替え工事中で、工事用覆いで囲まれ、その優美な姿を外から見ることは出来ませんでした。 しかし(不幸中の幸い?)神社側の御好意で工事中の内部の見学をさせて頂きました。

 山口棟梁は、この明通寺の本堂の屋根の葺き替え工事、そして1956年の三重の塔の解体修復工事にも宮大工として携わっています。 住職による概要説明のあと山口棟梁による本堂各部の建築様式や収まりの解説、そして工事中の三重の塔では、桧皮の葺き替え工事に伴う屋根下地の工事状況を目の前で見ることが出来ました。 普通は絶対見ることの出来ないアングルで塔の組み物や屋根工事の状況を潰さなく見学できました。本当に貴重な見学ができました。

桧皮屋根葺き替え工事 1956解体修復時に外されて展示されている相輪
写真-19 桧皮屋根葺き替え工事 写真-20 1956解体修復時に外されて
展示されている相輪

 国宝の本堂は、正嘉2年(1258)に建立された、入母屋造桧皮葺、桁行5間(14.72m)・梁行6間(14.87m)の建物です。 屋根の美しい勾配と、柱と柱の間を幅広くとるなど建築資材の使い方や組み方が力強く武家社会の円熟期を思わせる建物です。

 三重塔は、文永7年(1270)建立の、初層平面方三間(4.18m)総高22.12m、桧皮葺木造三重塔婆。 全体的なバランスの良さや組ものの精密さなどから、高度な建築技術を駆使しており、国内でも鎌倉建築を代表する建造物です。そして心柱が、2層から設置されていることも特徴の一つです。

7. 見学(5)神宮寺仁王門北門(重要文化財):鎌倉時代末期
  神宮寺本堂(重要文化財):室町時代末期

 2日目ふたつめの見学は、神宮寺です。 神宮寺は、奈良東大寺二月堂の「お水取り」に香水を送る「お水送り」神事を行っていることで有名です。

 本堂は、室町時代末期、天文22年(1553)越前守護朝倉義景が再建しました。 大きさは間口14.34m、奥行き16.60mです。 建築様式は、和様を主体にしたなかに、木鼻に天竺様繰形、唐用束梁などの大陸の技法が用いられており、妻飾も軒隅の反転とともに華麗な姿を表しています。

 仁王門は、神宮寺北の玄関口で、間口6.37m、奥行き3.64m、棟高5.5mで8本の柱の上にこけら葺きの屋根がのっていました

 構造や規模は簡素ですが、珍しい形をした蓑束などの様式は室町建築の先駆とさえいわれています。 両端に安置されている木造金剛力士像には、至徳2年(1385)の墨書がみえます。
神宮寺仁王門 神宮寺本堂外観
写真-21 神宮寺仁王門 写真-22 神宮寺本堂外観
神宮寺本堂内観 神宮寺塔の跡の説明風景
写真-23 神宮寺本堂内観 写真-24 神宮寺塔の跡の説明風景

8. 見学(6)小浜市内伝統建築群

 この見学会最後は、平成20年6月9日に国の選定を受けた小浜市西組地区の重要伝統的建造物群保存地区の見学でした。 ここも山口棟梁の案内・解説で詳しく見学ができました。

 町家、離れ(付属屋)、土屋、寺社建築物、西洋建築物等、様々な建物があり明治21年の大火以降の建物が主体になります。 この小浜西組の町屋は、京都と同じく「うなぎの寝床」のような間口が狭く奥行きが長い形式が多くなっているようです。

 その他、若狭瓦、袖うだつ、紅柄格子、土蔵は海鼠・漆喰・板張りの壁が特徴です。 その後昼食を全員で取って2日間の日程終了・解散となりました。

小浜の街並み1 小浜の街並み2
写真-25 小浜の街並み1 写真-26 小浜の街並み2
小浜の街並み(ナグリ仕上げの格子戸縦桟) 昼食時山口棟梁の話に聞き入る参加者
写真-27 小浜の街並み(ナグリ仕上げの格子戸縦桟) 写真-28 昼食時山口棟梁の話に聞き入る参加者

 今回の木造研究会は、若狭小浜地方の貴重な社寺建築や街並みの見学でしたが、大変充実した刺激多い見学会になりました。 これもこられの建物に宮大工として深く携わり精通した山口棟梁に同行解説して頂いたことにつきると思います。 それぞれの建築物の持つ奥深さや背景、各建築様式(和洋・大仏様・禅宗様)などの詳しい説明・解説、そして何よりも同じ建築の道に身を置く者として『人間・棟梁山口』の建築に対する志に触れることが出来たことも大きな収穫になったと思います。

 山口棟梁が、度々話された内容で一番印象に残ったことは『建築材料として使われる木材に第二の生命を与え長持ちさせる使い方を意識しろ!理にかなった木材の使い方を!』→『木を扱う人は、気を使え!』これは木材の伐採の仕方(伐り旬)、乾燥(葉枯らし・自然乾燥)のしかたも含めた、現在の建築が失った、先人の知恵を建築に携わるものが今後どう伝えていくかが大事だということでした。

山口先生 近畿職能大 田島先生
写真-29 山口先生 写真-30 近畿職能大 田島先生

 最後に、近畿職能大の田島先生、本見学会を企画・段取り準備して頂き、誠に有難うございました。

 おかげさまで、充実した若狭小浜での2日間になりました。感謝します。

文責 愛媛センター 居住系 菊池 観吾

 

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