建築・デザイン系

第12回 建築系ひとづくりフォーラム

2007年9月29日〜9月30日、埼玉県飯能市、秩父地域にて、第12回 建築系ひとづくりフォーラムが開催されました。


東京の木とひとづくりを訪ねて

― 飯能・秩父で多くの関係者に触れる ―

 第12回建築系ひとづくりフォーラムは、2007年9月、「2007実践教育研究発表会」が職業能力開発総合大学校東京校(小平市)にて開催されたのに連動し、発表会後、1泊2日の行程で実施しました。

 今回の訪問地は、首都圏西部の「飯能・秩父」の山林地域としました。

 近年、各地で「近くの山の木で家をつくる会」など、地元の木材を活用した家造りネットの活動が盛んになり、当専門部会でも、宮城県の「大崎」地域(2006実践発表会)や岩手県の「気仙」地域(2006年、第11回フォーラム)などを近年訪問したばかりですが、今回は首都圏の山林事情を見聞するまたとない機会として設定しました。

 首都圏東京では、山林は西部の飯能、秩父、奥多摩、高尾、丹沢等の地域に広が1ります。今回はそのうち、「西川材」を産出している飯能地域と、その奥の山深い盆地で独自文化を育んできた秩父の里を訪ねました(西川材とは、江戸の西の川から運ばれて来る材の意)。この地域は、首都圏では貴重な森林を形成し、かって林業が盛んでした。今日勢いは衰退していますが、今も、地元の木を愛し活用をめざす多くの関係者の努力が続いています。


1日目:9/29(土) 飯能地域

■清水慶吉棟梁の住宅現場を訪問

 最初の見学地は、飯能市の棟梁・清水慶吉氏((有)シミズ工務店代表)が手掛ける住宅現場で、埼玉県南西部で産出される西川材を使った家づくりの現場です。

 建物は小屋組やホゾ差しに工夫をされるなど、木材を活かす取り組みを積極的にされていました。また、お弟子さんも多く受け入れられ、木造建築を受け継ぐ後継者の育成にも熱心に取り組んでおられました。

▲地元の西川材をふんだんに使った伝統的木組みの家 ▲シミズ工務店・清水慶吉氏による説明 ▲構造材仕口部の工夫

■「協同組合フォレスト西川」を訪問

 次に訪問したのは「協同組合フォレスト西川」で、理事長の大河原章吉氏にお話を伺いました。ここは飯能市の木材開発業者を中心に、地元西川材の需要拡大と高付加価値化をめざして設立されました。プレカット工場や乾燥設備が稼動する一方で、集成化や未利用材の有効活用などの製品開発も積極的に行なわれています。

 見学した「阿須工場」の事務所の建物は、西川材を使用したもので、内部には造作・仕上材のほか家具も展示してあります。モデルハウスとショールームを兼ね備えた構成で、訪れたユーザーが西川材に対する理解と関心を深められるように工夫されていました。

▲フォレスト西川・大河原章吉氏による説明 ▲阿須工場モデルハウス(西川材のショールーム)

■「大河原木材(株)」を訪問

 続いて訪問した「大河原木材(株)」は、飯能で西川材を扱う製材業の中でも有数の工場です。代表の大河原伸介氏にお話を伺いましたが、ここの事務所でも西川材がふんだんに使われており、ダイナミックな小屋組みを見ることができました。大規模な木造の製材品倉庫もあり、多くの木材がストックされていました。

▲大河原木材・大河原伸介氏による説明 ▲木造トラス構造による大規模な木材倉庫

■「設計事務所・創夢舎」を訪問

 1日目最後の訪問は、飯能市内の「一級建築士事務所・創夢舎」を主宰する吉野勲氏です。吉野氏は、西川材を用いた家づくりを設計者の立場から実践されており、あわせて木のすまいづくりのネットワークである「素木(すき)の会」の推進役もされています。

 事務所でお話を伺った後、手がけられた住宅数棟を案内いただきました。夕方遅くなり辺りは薄暗くなりつつある中で、伝統構法・真壁づくりの外観がたいへん印象的でした。

▲事務所にて吉野勲氏から話を聞く

■秩父「新木(あらき)鉱泉旅館」にて懇親会

 予定時間も大幅に過ぎ、「新木鉱泉旅館」に到着したのは19時を過ぎていました。創業180年の歴史をもつ宿で、たいへん落ち着いた風情ある建物です。

 翌日は秩父の名棟梁であった故山中隆太郎氏が手がけられた建物を見学予定であることから、夕食時に山中隆太郎氏の後継者である山中清棟梁をお招きし、懇親の場を持ちました。在りし日の棟梁の仕事や秩父の話をうかがうことができました。宿泊するこの旅館の改修も隆太郎氏がされたことを知り、一層期待を胸にしながら1日目の行程を終えました。


2日目:9/30(日) 秩父地域

■道の駅大滝温泉の「郷路(ごうろ)館」を見学

 朝方から雨が降り始めているものの、参加者は秩父の独自文化を探るべく、意気揚々と道の駅・大滝温泉「休憩処・郷路(ごうろ)館」へ向かいました。

 建物は、故山中棟梁が木の肌を活かした、太い磨き丸太をふんだんに使用した建築です。丸太は、村の先人達が90年も前から育ててきた樹木を村有林内より伐採したもので、縄文建築を連想させる素朴な建物となっていました。ちなみに「郷路館」の名称は、金田一春彦先生が命名されたそうです。

▲道の駅大滝温泉・郷路館の全景 ▲郷路館の大胆な木組み架構と納まり

■故・山中隆太郎棟梁のご自宅を訪問

 その後、秩父市内にある故山中隆太郎棟梁の「山中工務店」のご自宅を訪問しました。大勢で押し掛けたにもかかわらず、ご家族から快く向かいいれていただきました。お茶とお茶受けなどをごちそうになり、ひとときの安らぎを味わいました。

 さて、本題に戻りまして、ご自宅ですが、棟梁の発想の豊かさをあらん限りに表現している建物といえます。曳き家をした蔵と蔵の間に居間が作られていたり、高い所にある神棚に手が届くように、箪笥の引き出しが階段になっていたりと。

 また、地下には、郷土史の研究を行うために古き宝物が多数、収蔵されていました。山中工務店のご自宅は、棟梁の温かみが十分伝わり、廃材を生かす試みをはじめとして、創意工夫している点に感嘆しました。

 昼食は、息子の清氏と「秩父の里・わへいそば」でいただきました。この建物も山中工務店がてがけられたもので、古民家風の高い天井が印象的でした。

▲山中棟梁のご自宅内部(蔵と蔵の間を居間にした) ▲故・山中棟梁のアイデアによる箪笥階段

■「秩父まつり会館」と「秩父神社」を見学

 午後になってさらに雨の勢いが増すなか、「秩父まつり会館」に向かいました。

 この会館には、日本三大曳祭りの一つ秩父夜祭の資料展示や、昭和の名工による屋台、笠鉾が1台ずつ常設展示されていました。豪壮な秩父屋台ばやしの音が響きわたり、夜祭を再現したところを堪能しました。

▲秩父まつり会館・秩父屋台の展示

 次に、その向かい側にある「秩父神社」を見学しました。秩父神社は、秩父地方の総鎮守です。「三峰神社」、「宝登山神社」とあわせて、秩父三社に数えられています。社殿には、様々な彫刻があり、左甚五郎作といわれる「つなぎの龍」があり、龍が近くの沼に水を飲みにいき、その度に嵐が起こり作物が台無しになるという伝説があり、本物の鎖につながれていました。

▲秩父神社入口 ▲左甚五郎作・つなぎの龍

■帰り道に、きまま工房「木楽里(きらり)」を見学

 今回のフォーラム最後の訪問地として、秩父から飯能に至る国道299号線沿いにある、きまま工房「木楽里(きらり)」を見学しました。

 ここは井上林業・井上淳吉氏の経営によるもので、西川材への理解と利用拡大をはかるための施設です。木製品を実際につくることができる工房としての役割も持ち合わせています。気軽に木づくりの体験ができるように設備の整備とスタッフ体制がとられており、木工教室をはじめオリジナルの家具にも対応するなど、子どもから大人まで西川材に楽しく触れることができます。ちょうど今年でオープン10周年を迎えられました。この建物の設計は、前日に伺った吉野勲氏によるもので、井桁状の小屋組がたいへん印象的でした。

▲きまま工房「木楽里」の外観
▲「木楽里」の小屋組架構 ▲「木楽里」の工作室

■第12回フォーラムを終えて

 今回のフォーラムの2日間は、西川材の生産と、材を活かした設計、施工、および地元材への理解を深める取り組みに触れることができました。これらは秩父の歴史にも関連が深いのではないかと思います。

 今回の旅を通し、秩父地域の独自文化が、現在もしっかり受け継がれているとともに、地域文化の原点に、人づくりがあることを強く感じることができました。

 関係各位に深く感謝申し上げ、報告といたします。

▲第12回フォーラム参加者一同

 

(磯野/九州能開大、平野/東北能開大)

 

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