建築・デザイン系 |
2004年9月29日〜10月1日、富山県大野町の「富山国際職藝学院」と石川県金沢市の「金沢職人大学校」にて、第9回 建築系ひとづくりフォーラムが開催されました。 ※ このページは、「富山国際職藝学院」で行われたもののレポートです。
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在学中に、地域の多様な実際建物を建設実践 |
− 若き職藝人の育成をめざす「富山国際職藝学院」 − |
■地域で話題の専門学校を訪ねて |
今回のフォーラムは、2004年度実践教育研究発表会が北陸職業能力開発大学校で開かれる機会にあわせ、話題のものづくり学校2校で開催した。参加は、発表会から引き続き参加の会員18名と、事前の幅広いPRから一般参加された7名の計25名で、移動は東西から参加の会員有志の車数台に分乗して行った。 1日目は、富山市南方の大山町にある「富山国際職藝学院」を訪ね、夜は八尾町の宿で懇親会を行った。 〔1日目実施概要〕2004/10/1(金)午後〜夜 ・会場: ・参加:計25名(一般参加7名+会員18名) ・対応:校側3名(窓口:池嵜助成教授、島崎英雄マイスター、大丸英博講師の各氏) ・取材:北陸中日新聞社(富山支局木村記者、記事はなし) |
■「職」と「藝」を結ぶ総合教育をめざす | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
同校は、従来の学校スタイルにとらわれない文字通りの実践教育を行う学校として、各界から大きく注目されている。県内外の建設業界・造園業界等300社の支援を得て学校法人を設立し、技能系としては全国でも珍しい「専門学校」として1996年に開校した。独自構想により、「名匠情報センター」、「職藝基礎研究センター」も併設されている。
立ち上げには、中心となって動かれた稲葉實氏(現理事長、三四五(みよご)建築研究所代表)らのほか、尾島俊雄氏(早大教授)、田中文男氏(東京の著名棟梁)など内外の多くの方々の尽力があり、実際の運営には、島崎英雄氏(地元の著名棟梁)、池嵜助成氏(今回の窓口)ほか多くの経験豊富な実務者が当たられている。
伝統によって培われてきた職人の技を意味する「職」と、用の美と芸術性を追求する職人の心を意味する「藝」とを結ぶ「職藝」を建学の理念とし、伝統を継承しつつ、21世紀にふさわしい建物・環境づくりに携わる新しい専門家(職藝人)の育成を目標としている。 「環境がわかる大工」「建築がわかる庭師」をめざし、「建築職藝科」(大工・家具・建具の3コース)と「環境職藝科」(造園・園芸の2コース)を設置。本科は2年、進学希望者には研究科1年が設けられている。 学生は全国から集まり、県外が約7割を占める。教育の質を保つため、毎年多くの留年者も容赦なく出すなど、授業もかなり厳しいという。卒業時には「生涯学生証」を発行し、その後のケアも心がけている。 |
■校内では、多様なコースの実習を展開中 |
最大の特色は、2年次には外に出て、社会の多様な「実際プロジェクト」を建設実践していることである。 本科2年では、伝統技能の基本を学び、あわせて職藝人の基本マナーを重視し、授業は約6割が実習。科目には「職藝基礎系」(職藝人の素養)、「職藝専門系」(相互の専門理解)、「合科ワークショップ」、「実践道場」(川上川下実習、合掌造り茅葺き替え等の世界遺産実習)、「作品研究」、「特別授業」(挨拶・マナー等)などユニークなものが並ぶ。その他、「職藝仕事始め」(年始)、「職藝仕事納め」(年末)、「手斧始め」、「上棟式」など、古式による職人儀式も大きな特色である。 建築系では、1年次は主に校内で木工技能の基本を学び、2年次は「実物教材」(実際の建物や製作品)により実践的に学ぶ。2年次からは、「建築大工」コースはさらに「民家」「寺社」の2専攻に分かれる。
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同校の多彩な建設実践の例(同校HPより) |
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●職藝仕事始めの儀 |
●O邸造園改修工事 |
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●第5実習棟(橋下記念館)新築工事 |
●東福沢神明社修復工事 |
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●世界遺産「合掌集落」葺替え実習 |
訪れた時、校内では、建築系1年生が「組子」の合同実習中、2年生寺社コース生が寺社解体部材を修復中、2年生家具コース生が家具製作中、環境系造園コース生が造園作業中、と多彩な実習を展開中であった。 |
●池嵜助成 教授より説明を受ける |
●校内には多数の実習場が並ぶ |
●建築職藝科1年生の実習(組子製作) |
●建築職藝科1年生家具コースの実習 |
●第5実習棟(小学校を移築再生) |
●同内に保存中の民家解体部材 |
■校外のスキーハウス建設現場を見学 | ||||||||
2年次の実習では、これまで、地域連携により、木造の新築・解体・移築再生のほか、文化財の修復、地域おこし、古民家・ギャラリー・寺院・茶室・門・土蔵・庭園など、実に多彩なプロジェクトが実践されて来た。 これらは、材料費等を除いて無償で行うが、マスコミ等を通して反響を呼び、地域から次々と協力依頼が寄せられ、今や3年先までふさがっているという。実践中のプロジェクトは年間通じて数ヶにものぼり、企画や段取り調整が指導陣のもう一つの重要な仕事でもある。 この日、建築大工コースの「民家」専攻2年生が校外で実習中と聞き、早速、現地に引率してもらった。 建物は、山麓近くのスキー客向けの多目的センターで、「大黒柱、四方差し、貫構法」など伝統的構法を駆使した建物を、総勢20名余りで「建て方」中であった。在学中に実際の建設に携わることで、実践力や緊張感を育てようとする迫力が感じられた。移動のために、マイクロバス4台、トラック、ユニック車なども整備と言う。
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■校内の完全リサイクル実験住宅 | ||||
その後、校内の「完全リサイクル住宅」を見学した。早大・尾島研究室との共同プロジェクトで、最初別の場所に学生らの手で建てられた後、この場所に移築された。その時の材料リサイクル率等を調査、現在も自然エネルギー利用や室内環境の状況が常時観測されている。
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■島崎棟梁の住宅現場へ | ||||
学校見学を終えた後、島崎棟梁のご好意により、八尾町の住宅団地内にある住宅現場を見せてもらった。 各種の栓を用いた伝統的骨組み、手間のかかるクルミ材を貼った床材、その下に敷き詰められたモミ殻など、氏のこだわりが発揮され、感銘を新たにした。
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■島崎棟梁の自宅と工務店へ | ||||
長い半日も終わり夜の帳が降りる頃、最後に、同町にある島崎棟梁の自宅と工務店に案内してもらった。 自宅は、これまた、古民家を移築再生したユニークな造りで、総ケヤキ材で出来た大広間、趣味を兼ねて製作されたプロ顔負けの多彩な椅子や家具に目を奪われた。 併設の工務店では、多くの職人の他、卒業生を9名も雇い入れ、請け負った住宅の調度家具も全て製作しているという。同校の学生や東京からの研究者などが頻繁に寝起きし、氏の気さくな人柄が伺われた。
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■島崎棟梁担当の合掌の宿で懇親会 | ||||||||
夜は、池嵜先生ご紹介の同町内の「たかだいの宿・合掌」という宿に泊まり、学校関係者とゆっくり懇親の夕べを持った。この建物も棟梁が移築再生を担当されたもので、全国からの参加者は、お世話になった島崎棟梁、池嵜先生、大丸先生と夜更けまで交流を行った。
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(秋山恒夫:フォーラム企画担当) |
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