建築・デザイン系

第3回 建築系ひとづくりフォーラム
Part U

冨士教育訓練センター

2000年7月7日〜8日、静岡県富士宮市の「日本建築専門学校」と「冨士教育訓練センター」にて、第3回 建築系ひとづくりフォーラムが開催されました。

※ このページは、「冨士教育訓練センター」で行われたもののレポートです。

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建設業界が共同で
現場系人材の実践的育成に挑む

― 若者たちの自信の育成をめざす「富士教育訓練センター」―

■話題の業界共同訓練施設を泊まりがけで見学

 日本建築専門学校を後にし、その日は近くにある富士教育訓練センターの研修寮に宿をお願いした。他の一般寮生と同じ寮室に入り、食堂での夕食のあと、夜更けまで参加者相互の発表討論や交流を行った。

 翌日は、若者達の朝礼に列席したあと、センター内の見学、三輪専務理事をまじえて質疑を行った。先ほどの菊池・日本建築専門学校前理事長も参加され、交流を深めた。

・期日: 2000/7/7(金)〜8(土) (1泊2日)
・会場: (2日目)「富士教育訓練センター」 静岡県富士宮市根原492-8
http://www.fuji-kkc.ac.jp/
・宿泊: 富士教育訓練センター付属の研修寮
・参加者: (一般参加10名、会員9名)
・施設側: 3名(三輪洋二専務理事、菅井文明教育訓練課長、大平延行教官ほか)

■「旧・建設大学校」を払い受け、業界で共同利用

 当センターは、1997年、旧「建設大学校・朝霧校」の跡地施設を払い受け、建設省・労働省(当時)の助成等により運営されている国内最大規模の建設関連の共同訓練施設である。背景には、行政側の技能者育成施策のほか、近年の不況による社内技能者の育成困難が大きくあり、建設各界から熱い期待を集めている。

●玄関の表札(縦割り行政を反映し、左:旧建設省、右:旧労働省登記の2種類名称が並ぶ)

 運営には、20を越える専門工事業団体等が参加し、傘下の企業から研修希望者を募っている。利用者は、躯体、土木、仕上げ、設備等のサブコン業が多いが、ゼネコン等の研修受け入れも行っている。


■全国から新入社員等を受け入れ、実践訓練を展開

 業界のニーズに全て応えるのが基本スタンスであり、そのためにレディーメードの他、企業団体に合わせた多様なオーダーコースが開設されている。

 全国の各企業が社員を数名派遣し、全寮制のもと、初級から中級、上級まで多様な訓練を受ける。期間は1週間から数ヶ月まで多様だが、多くは2〜3ケ月の短期集中で、春先は新入社員向けコースが多いという。経営上、後半期は手薄なので、専門学校や高校生のインターンシップ、向上訓練等も随時行っているとのことであった。

 年間、膨大なコースが走るが、当日は、「躯体基礎」「型枠基礎」「測量」「PC基幹技能者」「土木基礎・多能工」「建築基礎・多能工」「土木施工管理」「建築施工管理」等、8コース、130名が訓練中であった。

●「型枠基礎」コースの実習風景(広い構内には、教室棟、体育館、目的別実習場、建設機械、材料・土質実験室、屋外実習場など、多様な実習スペースが展開) ●「土工設備」コースの配管敷設の実習風景(構内の改修工事を、訓練生自ら実践。タイル、造園、左官・塗装工事など、構内各所に研修生名を記した銘板を設置) ●「実測基礎」コースの実習風景(建設業の全職種を網羅する多様な短期コースが設置されている。案内パンフより)
●「足場組立」コースの実習風景(職種別訓練は、専門団体・企業等に依頼し実施。案内パンフより) ●「鉄骨とび」コースの実習風景(現場に即した実践的訓練により、自信をつけ各地に帰って行くという。案内パンフより) ●「建設重機」コースの実習風景(案内パンフより

 

 その多くは、高校を出たばかりの若者だが、この短期間で基礎技能をしっかり身につけさせ、しつけや礼儀も厳しく指導するなど、企業ニーズにしっかり応えようとの雰囲気が、どのコースにもみなぎっていた。実地指導は教官のほか、必要に応じ各団体企業が指導協力し、文字通りプロ育成のための仕組みとなっている。このため、派遣した企業からの反応はいいと言う。


■しつけ等も全人的に教育、熱意あふれる指導体制

 基礎技能の習得とともに重要なのは、若者のしつけや生活指導だと言う。最大のドラマは、突然、下界と孤絶された全寮生活に入ることで、気持ちを入れ替えさせるためには当初の1週間が勝負という。しつけや礼儀、仕事の心構え等の指導のほか、生活の悩みにもじっくり相談に乗ったり、仲間と交流することによって、修了時には見違えるように帰って行く子が多いという。そればかりでなく、修了後も連絡を取り合ったり、尋ねて行くなど、フォローも心がけていると言う。

 そのため、教官ほか職員はほとんどが単身赴任で、全時間を訓練生と過ごすような熱意に圧倒される思いであった。

 フォーラム参加者も朝礼に参加した。規律ある朝礼風景や研修を終わったグループを送る場面に、彼らの様々な心中が伺える気がした。フォーラムを代表し、守屋今朝登氏(大工指導員)が若者達に激励挨拶を行った。

●毎朝行われる全体朝礼の様子(この日研修を終え各地に帰るグループを送別。1泊したフォーラム参加者も朝礼に参加し、飛び入りで若者たちに激励挨拶を行った)

■業界の深刻な育成事情、財政運営に苦労

 三輪専務理事をまじえての交流討議では、業界事情の深刻さやセンター運営の苦労を聞いた。

 センターの職員体制は12名、指導は教官5名と非常勤3名、その他臨時教官が40〜50名(春先がピーク、協力団体等から派遣)。

 運営費は、訓練費(企業等)6割、助成金3割、ゼネコン等の団体支援1割という構成。実習の材料費は、訓練費と助成金でまかなっている。それでも運営は苦しく、営業のために、全国の企業団体を手分けしてまわっている。会社派遣は、当初は多かったが、近年は各社1〜3名が多い。実質的に、売り上げ10億円、社員30人以上ない企業は、社員教育は無理。技能者育成は一企業では限界にあり、国が真剣に考えるべき。今後、少子化や環境整備の遅れで、若者が業界に来なくなる恐れ。

 今後の教育は、現場OJTは期待できず、主力はoff-JT。日本ではユニオン(米)のような方向は無理で、建設業の派遣会社(教育を十分行い、レベルに応じ給与をランク分け)を作るべき。賃金が低落し、食えない状況。そのため、多能工や基幹技能者など、新たな訓練を試行中である。

 これら三輪理事や内藤大崎建工社長の話が強烈であった。

●全国各地からの多彩なフォーラム参加者(参加者は、付設の研修寮に泊めてもらい、実際の寮生活を体験した) ●食堂風景(研修中は規律ある生活習慣等も指導。フォーラム参加者も、ここで深夜まで活発な議論交流を行った

 

 泊まった一夜は、夜遅くまで、参加者と職員をまじえ激論・交流を交わした。

●センター全景(旧「建設大学校朝霧校舎」を譲り受け再利用。手前右:本館、 手前左2列:食堂+寮室群(全寮制)、奥:各種実習場と屋外実習場、同施設パンフより)
 

(過去の関連記事:「実践教育ジャーナル」誌1995/5号(建築系通巻16号)参照)

(秋山恒夫:フォーラム企画担当)

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