建築・デザイン系

第2回 建築系ひとづくりフォーラム

1999年11月27日、東京建築カレッジにて第2回 建築系ひとづくりフォーラムが開催されました。


大都会の真ん中で、働きながら学ぶ
木造系短大の課題を討議

− 第2回「建築系ひとづくりフォーラム」を「東京建築カレッジ」にて開催 −

■着実な一歩を踏み出した「ひとづくりフォーラム」

 建築・デザイン系専門部会では、第2回「建築系ひとづくりフォーラム」を、1999年11月末、木造技能後継者の育成をめざす「東京建築カレッジ」にて開催した。

 今回の集いでは、大規模職人組合が運営する「認定短大校」の訓練の実態、運営上の苦労や工夫、製作品、生徒の様子などをつぶさに見聞できた。

 今回は、年末という事情もあり、参加者は若干少なめだったが、計2回の開催を通し、思った以上の反響があり、着実に一歩を踏み出したように思われた。

 特に、業界の人材育成に関心を持たれる、企業、団体、実務者、教育・研究者、学生、マスコミなど、多岐多様な方々の積極的参加があり、既存の制度の垣根を越えた交流への渇望とフォーラムへの期待を実感した。


■第2回フォーラムの概要

●期 日: 1999年11月27日(土)13:30〜17:30
●会 場: 「東京建築カレッジ」(認定職業能力開発短期 大学校、東京土建一般労働組合運営、豊島区池袋)
http://www.tokyo-doken.or.jp/sumai/tac1.html
●テーマ: 「町場系木造訓練校の現状と課題」
●参加者: 外部・会員21名+カレッジ側10名 計31名
 (実践研側担当:秋山、田畑、秦、星野)

 (他に、月刊誌『建築の技術・施工』編集部の取材あり、2000/1号に掲載。別掲記事参照)(以下敬称略)

○外 部: 水戸潔(住友林業建築技術専門校/校長)、大仁田拓三(千葉日建工科専門学校/校長)、菊池光起(日本建築専門学校/理事長)、蟹沢宏剛・古川正史・磯川 博一((財)国際技能振興財団)、菅澤光裕((社)住宅生産団体連合会/事業部長)、渡辺謹治((株)渡辺富工務店/代表取締役)、小西広晃((株)中央住宅/能力開発課)、花田勝敬((有)HAN環境・建築設計事務所/代表)、内藤睦雄((株)大崎建工/代表取締役)、大平隆司(新日軽組合訓練校/校長)
○会 員: 熊倉仁造(ポリテクセンター新潟)、秦啓祐・須田和幸(千葉短大校)、田畑雅幸(北海道短大校)、星野政博(能開総合大校)、秋山恒夫(能開総合大東京校)、堀田圭二・安田善行・内構和哉(能開総合大東京校/建築施工科学生)
○カレッジ: 藤澤好一校長、野部理事長、守屋今朝登副理事長、松森陽一事務局長、渡辺顕治教務部長、長谷部浩・関昌孝講師、藤間輿治・小田切・望月指導員
●内 容:
13:30〜 開会・実践側挨拶、参加紹介、学校説明(PRビデオ・各実習ビデオ)
15:00〜 校内・実習見学(2年:規矩術実習、1年:住宅模型実習、各階:各種製作品等)
16:00〜 ミニ講演「今後の木造技能者の育成課題」(校長・芝浦工大教授、藤澤好一氏)
16:30〜 カレッジへの質疑、討議(感想・意見、今後のフォーラムの進め方など)
17:30 閉会
18:00〜20:00 懇親会(近くのホテル、参加18 名)

■たくましく育ちつつある、若者後継者たち

 当校は、当ジャーナル誌でも度々紹介して来たように、都下12万人の大規模職人組合が、1995年に開設した2年制の認定短大校である(労働組合立では全国初)。

 大きな特色として、「大都会の町場工務店の後継者を育成」、「平日は現場で働きながら、週末に学ぶ」、「木造の基礎技能から、現代技術まで幅広い習得をめざす」、「在職組合員のために、夜間・土日開講の技術研修センターを併設」、「NHK〈天うらら〉ドラマにも制作協力」など、関連各界から注目を集めている。

 今回の見学では、開校4年目を迎え、軌道に乗って来た実習の様子や各種製作品、建物設備等を見学した。

 研修生は、既に働いていることが前提で、年齢も入職したての18歳から、途中転職した人、現場経験10年以上など多様な幅があり、職種も、「大工」以外に、「鉄骨」「内装」「設備」など多岐多様で、女性も数名がんばっている。

 いずれも、「町場」(住宅工事業等)の零細事業主たちから派遣された若者たち(約半分は工務店2世)で、各自の様々な教育や入職事情、親や雇用主の様々な経営事情を抱え、恵まれない条件下で苦労しながらも、生きた技術の習得をめざす、パワーあふれる若者たちである。

 今や現場では、電動工具やプレカットが幅をきかす上に、多忙で先輩からも指導してもらえないため、この学校では、まず「大工技術」の基礎を徹底的に仕込むと同時に、2階建ての「実習棟」を建てることを2年間の柱に置き、必要な技術要素はその都度教える工夫を行っている。

 また、業界展望は決して明るくないだけに、今後を乗り切るため、「設計」「プレゼン」「CAD」「構造」「積算」など、幅広い現代技術の習得をめざし、「経営」等の独立心を養うことも心がけている。

 実態としては、能力的にも志向的にも、町場の様々な若者が集まっているだけに、「生活指導」や「しつけ」、「自主性」の育成も大きな教育テーマだという。


■ベテランの徹底指導、「林業実習」等の新しい試み

 当日、2年生は、地下実習場で、「木造施工実習」の最終段階として、「規矩術」による「棒隅木」の墨付け、刻み作業が行われていた。狭い室内だが、ベテラン指導員のもと、真剣な表情で取り組む熱気に圧倒された。

 1年生は、3階教室で、「プレゼン演習」として「住宅模型」を製作中。和やかな雰囲気で進められ、参加した日本建築専門学校の菊池理事長から、激励の挨拶をいただいた。

 建物は、都心駅近くの地下1階地上3階建て。非常に狭いビル形式(狭いため、通常の施工実習は、別の「練馬実習場」で行う)だが、ところ狭しとパネルや実習製作品が並べられ、普段の授業の様子がよく伝わって来た。

 作品では、「プレゼン」「製図」「CAD」、各種の「構造模型」作品、「卒業製作」の独自作品などが並べられ、意欲的な授業の一端が伺われた。

 また、飯能への「林業実習」、商店街と一体となった「カレッジ祭」、冬の「長野研修旅行」、修了前の「奈良研修旅行」など、林業や地域、伝統建築などへも幅広い関心を育てようとの、新しい試みも行われているという。


■鋭い問題提起があった、藤澤校長のミニ講演

 見学後行われた藤澤校長のミニ講演では、一転し、「技能者育成をとりまく深刻な問題」の観点から、以下のような鋭い問題提起があった。

背景として、雇用側の団体やゼネコンでなく、被雇用側 の労働組合が育成事業を迫られる特殊事情にあること。
下請け側が担う人材育成コストに対し、元請け側の理解がなく、育成コストの実態も不明なままで来たこと。
建設産業の今後が不明なため、求められる人材像も明確でないこと。
学校教育に比べ、訓練校では、指導法の開発や体系化が遅れていること。
旧来型の「技能競技」は、現在の生産現場と乖離しており、もっと訓練現場と生産現場をリンクすべきこと。
技能の評価法や社会待遇が未だ確立されていないこと。
日本の技能振興行政は、縦割りのままだが、もっと産業界と連携し一元化すべきこと。

 短い時間ではあったが、多様な観点から貴重な指摘があり、これらはフォーラム参加各位も常々感じている大きな問題でもあり、今後討議を深めたいところである。


■この学校は、職業訓練の原点を見る思い

 しめくくりに、参加者全員から感想・意見を伺った。その後行われた懇親会でも、大いに交流を深めた。

 参加者の主な感想・意見は、以下の通り。

「実際の様子が見れて、いろいろ勉強になった」、「ぜひ今後も参加したい」(多くの方の感想)
「大都会の中で、この学校はいろいろな苦労や工夫をされ、訓練の原点を見る思いだった」、「生徒さんの生き生きとした目や、元気良い挨拶が印象的」
「ひとづくりは深いテーマ」、「技能者育成は業界全体の問題、もっと時間取って議論したい」(多くの方の意見)
「技能五輪等の取り組みに、建築系はあまりに零細。相互に連携したい」(技能競技に取り組む訓練校)
「11月カナダの国際技能五輪では、自校選手は惜しくも6位敢闘賞。国内会場は閉鎖的だが、外国では市民に開放的なことに感動。舞台裏では、各国間の熾烈な駆け引きも」(住友林業校長からの帰国報告)

 その他、運営方法や取り上げたいテーマ等の点についても、多くの方からご意見や提案を頂いた。

 今後は、さらに多様な「教育訓練現場」の見学を継続する一方、関係者間の日常的な「交流ネット」を構築し、教育訓練上の関心ある問題を討議したり、成果を世に問うような動きが必要と思われた。

 今回の開催に際し、カレッジ関係者には多数出席いただき、大変ご協力をいただいた。紙上を借りて厚くお礼申し上げます。


■今後の開催予定

 この企画は、会員外にも広く開かれています。お誘いあわせの上、ふるってのご参加をお待ちしてします。

●第3回:2000/7/7,8(金・土、1泊付き)

「日本建築専門学校」(菊池建設兜齣フの木造系の4年 制専門学校)+「富士教育訓練センター」(躯体サブコン業向けの共同訓練施設)(何れも静岡県富士宮市)

●第4回:2000/9/29(金)・30(土)

 「山形県立産業技術短期大学校」(山形市、県立短大校)

 (「2000実践教育研究発表会」と連動)

●第5回:2000/11月頃

 「職業能力開発総合大学校・東京校」(東京都小平市)

●第6回:2001/2月頃

 「大崎建設高等職業訓練校」(東京都江戸川区、躯体サブコンの社内訓練校)


●多彩な参加者による第2回フォーラムの討議風景 ●2年生の「木造施工実習」(「規矩術」実習) ●藤間指導員による「棒隅木」製作の徹底指導
●真剣な表情で取り組む、1年生の「住宅模型実習」 ●研修生の各種製作品(渡辺教務部長による説明) ●藤澤校長のミニ講演
●NHK朝TV小説「天うらら」(1998)カレッジが制作協力

秋山恒夫(常任幹事、フォーラム企画担当)

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