建築・デザイン系

建築系 地域情報 Vol. 7

 

愛媛県八幡浜市立日土小学校

2011.1
愛媛センター 菊池

■ はじめに
 四国愛媛県の西に位置する水産業と柑橘類栽培を主要産業とする八幡市(人口4万)の山間に地元の住民に『木霊の学校』と呼ばれている日土小学校(1956)があります。 2009年の実践研の第13回木造研究部会(愛媛)に参加された皆さんにも是非とも見学していただきたかった建物でありますが、調整ができなかったので、今回紹介させていただきます。

西校舎ファサード(校庭側から)

南側ファサード・川に張り出したバルコニー

■ 松村正恒氏と日土小学校
 この日土小学校は、当時八幡浜市に奉職していた松村正恒氏(1913〜93)による設計である。松村氏の建築は、当時から研究者、ジャーナリズム双方から注目を浴びており、松村氏自身『文藝春秋』の企画「建築家ベストテン-日本の十人-」に前川國男氏、丹下健三氏などと共に選ばれた実績がある。
 そして1999年にDOCOMOMO JAPAN)が日土小学校を、日本のモダニズム建築20選のひとつに選定して再び注目を集めています。

伊予かすりと金箔の市松壁面のある指導室

図書室(天井は銀箔とナグリの梁・輪切り竹飾り壁面)

■ 日土小学校が持つふたつの価値
 この日土小学校は、戦後の新しい教育への志をいち早く具体化し、戦前からの木造建築の流れを継承し発展させた希有な事例であり、そして現在でも通用する優れた学校建築と言える。 つまり守るべき文化財としての価値と、活用すべき地域資源としての価値を併せもつ建築であります。
【日土小学校の建築的特徴】
@ クラスター型教室配置の先駆的事例
A 教室への両面採光という考え方の完成形
B 合理的でハイブリッド(木造主体で鉄骨で部分補完)な構造計画
 :(木造で有りながらカーテンウォール工法採用等)
C 優れた空間性と現代性
 以上のような価値のある建築であるが、何よりもあらゆる空間が子どもの居場所になることなど、真に子どもの視線にたった設計、現在でも通用するモダニズムデザイン等には、感嘆させられるものがあります。

空中に浮いた下駄箱のある昇降口 普通教室(カーテンウォール形式の南窓面)
緩勾配の階段と手摺のディテール ノスタルディツクな洗面コーナ

■ 保存再生運動と改修工事
 このような多様な価値を持つ日土小学校であるが、築50年を経過し老朽化が進み、建替えを求める地元関係者の声が有る中、この建物の価値を認識して保存を推奨する建築関係者を中心とした『保存再生活動』が、2003年から始まりました。
 「保存会の設立」、「保存再生シンポジウム開催」、「再生計画検討委員会」など保存再生まで紆余曲折がありましたが、2006年3月 既存部分の一部改修や普通教室棟の新築という条件で日土小学校の保存が決定し、2009年6月に改修改築工事が完了しています。 尚本工事は、この建物を学校として使用しながら文化財としての登録の可能性も視野にいれた工事として進められました。
 現在、取りざたされている様々な教育問題に関連して、この日土小学校を実際目で見ることで現在の学校建築のあり方を深く考えさせられます。 再生された日土小学校から聞こえる子ども達の活き活きとした笑い声が、耳に残って止みません!

(新建築2009 11月号掲載 花田氏の文章一部引用)

DOCOMOMO JAPAN
 DOCOMOMO(ドコモモ 英:Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhoods of the Modern Movement)は、1988年に設立された近代建築の記録と保存を目的とする国際学術組織。 本部(DOCOMOMO international)と40カ国以上設けられた支部から成る。 本部は、当初、オランダのデルフトに設置され、2002年からはフランスのパリにある。 DOCOMOMO JAPANは、DOCOMOMOの日本支部である。

参考サイト:
八幡浜市役所:http://www.city.yawatahama.ehime.jp/
日土小学校を考えるネットワーク:http://wada-archi.com/hizuchi/
木霊の学校日土小学校:http://www.hizuchi.com/kodama/
神戸芸術工科大花田研究室:http://hanadalab.exblog.jp/10040827/

 

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