さぁ,連載講座も第4話となりいよいよ後半に入りました.今回から材料力学らしい話題を中心にお話を展開したいと思います.併せて文章の装いも少〜し変えてみましたがいかがでしょうか…….
さてそれでは,役立つ材料力学,「ハハァ,なるほど」と材力の威力が分かって頂けるような解説を心がけて,具体的なお話を始めることに致します.
■4−1 『材料力学物語』の事件簿
一見平穏に見える『材料力学物語』ですが,実はさまざまなダイナミックな事件が巻き起こります.ならばどんなものがあるのか? ではその事件簿をめくってみることにしましょう.
【問題4.1】
図4.1 のようなアルミニウムの段付棒に引張荷重が作用するとき全長の伸びを求めよ.
図4.1 段付棒の引張り
いかがですか? 簡単そうです.それではこちらはどうでしょう.
【問題4.2】
図4.2 のように同心に配置されたそれぞれ異なる材質の円柱と円筒が剛体板に挟まれて圧縮力を受けるとき,これらに生ずる応力と圧縮量を求めよ.
図4.2 異種の円柱と円筒の圧縮
前の問題は材料が直列につながって引っ張られてるのに対して,この問題は並列におかれてるに過ぎないようなものですが,なかなかどうして意味深長な問題です.
それから,引張り,圧縮に関してはこんな問題もあります.天井に固定してぶら下げられた直棒には,たとえ棒を引っ張らなくても,棒自身の自重によって引張応力が生じます.当然下端に比べ天井に近い上端の方に大きな応力が生じます.そこでこんな事件が起きてきます.
【問題4.3】
上端を太くし下端を細くして各横断面に生ずる応力が等しくなるような棒の形状を求めよ.
図4.3 平等強さの棒
自重による影響が大きくなる上端ほど太くして面積当たりの自重,すなわち応力を上でも下でも同じくしようというのがこの問題の主旨です.こういう棒を“平等強さの棒”と呼びますが,いったいどんな形状の棒になるでしょうか(円錐形状の棒でしょうか?).
【問題4.4】
3本の軟鋼棒を図4.4 のようにピン接合(ヒンジ支点,滑節)し,D点に荷重WをBDの方向に加えるとき,各棒に生ずる応力ならびにD点の変位を求めよ.
図4.4 トラス
こういった,直線部材がピンジョイントのみで接合された骨組みをトラスと呼びますが(一カ所でも動かない剛節のあるものはラーメンと呼ばれる),ちょっと厄介です.これをたくさんつなげたトラスは鉄橋のようになりますが,これも材力の世界です.それから……,
【問題4.5】
図4.5 のように同じ高さの鉄塔のAB間に一様な太さのケーブルを張り,その両端CとDを地面に固定する.この時ケーブルに生ずる最大応力を求めよ.
図4.5 地面に固定されたケーブル
高圧電線やロープウェイなどに見られる光景ですが,この問題で応力を下げるつもりで太いケーブルを使っても実はなんの解決にもなりません.不思議なことですが,これも材力の世界です.このほかにも……,
【問題4.6】
図4.6 のように直径 d=60mmのポンチで厚さ h=5mmの板に円孔を打ち抜くとき,板のせん断強さを400N/mm 2とすればいくらの打ち抜き力 Pを必要とするか.
またポンチに生ずる圧縮応力が1000N/mm2を超えないためには板の厚さの限界はいくらか.
図4.6 板の打ち抜き
まだまだあります――.
【問題4.7】…圧力容器
図4.7 のように3個の部品からなる圧力容器がM20のボルト6本で締め付けられている.水圧p=0.8MPaが作用するとき,ボルトに生ずる引張応力を求めよ.
図4.7 圧力容器
【問題4.8】 …L形フレームのたわみ
図4.8 のようにL形フレームの面内(フレームの作る平面内)に集中荷重が作用するとき加重点のたわみを求めよ.
図4.8 L形フレーム
フレームが剛体ならたわみませんし,たわむのであれば「剛体の力学」では解けません.変形を考える材力の世界であればこそ,このたわみ量を計算できるのです.
【問題4.9】…曲りはり
図4.9 のような波板がなめらかな平面で圧縮されている.このとき,高さの変化量および波のピッチの変化量
を求めよ.
図4.9 波板の圧縮
【問題4.10】…切欠きを持つ板の引張(応力集中)
図4.10のように側面に半径a の半円切欠きをもつ厚さh幅bの板を等分布荷重w(合力をWとする)で引っ張ったとき,最小断面A−Bに生ずる応力を求めよ.
図4.10 切欠きをもつ板
【問題4.11】 …柱の座屈
図4.11のように直径dの両端回転支点の柱の一端に軸方向荷重Pを受けて座屈するときの荷重を求めよ.
図4.11 柱の座屈
以上はみな,ものづくりに携わる人たちなら誰にでも身の回りで起こる問題ばかりですが,これらはいずれも材料力学の世界で起こる事件なのです.
さて,改めてこれらの問題を眺めてみると,これらの問題が求めているのは,概ね,
@応力を求めよ.
A変形量(圧縮量やたわみなど)を求めよ.
といったことに集約されるようです.応力については基本的には力の釣り合いから未知な力を求める作業が中心です.変形量はその力に基づいてフックの法則から求まります.そしてこれら2つのプロセスが独立して行われることもあれば(問題としては簡単),互いに関わり合って連立している場合(難しい)もあります.
■4−2 垂直ひずみとせん断ひずみ
第3話まで進めてきた応力やひずみについて,ここでもう一度まとめておきましょう.
(1)座標系
と,その前に座標系を決めておきます.通常下図のように,棒の軸線に沿って横軸(x軸)を,数学の教科書とは違って鉛直下向きに縦軸(y軸,重力の向きを基準にしている)を定めるのが一般的です.もちろん,y軸を上向きに取っているテキストもありますが,基本的に変わりはありません.コンピュータ計算や宇宙空間を想定する場合にはその方が都合がいいのかもしれません.
図4.12 座標系
また,伸びとせん断について,力の正方向は上図の通りです.軸方向については棒の+側端面に正の向きに(−側端面に負の向きに)働く力がプラス,したがって伸びがプラス.せん断については棒の切断面より+側部材が縦軸正の向きに(−側部材が縦軸負の向きに)ずれるような力をプラスとします.
(2)伸び・縮み
ではそこで,垂直方向の応力とひずみですが,垂直応力は次のようなものでした.
…………(4.1)
図4.13 棒の引張り
一方,垂直ひずみは
…………………(4.2)
図4.14 垂直ひずみ
そしてひずみと応力の関係は(フックの法則といいました),
…………………………………………(4.3)
これを伸びと力の形で表せば,上式の両辺に面積を乗じ式(4.2)を代入して次式を得ます.
………………………………………(4.4)
(3)せん断(ずれ)
せん断応力は次のようなものでした.
………………(4.5)
図4.15 棒のせん断
それではせん断ひずみは,
………(4.6)
図4.16 せん断ひずみ
そして,ひずみと応力の関係は,
…………………………………………(4.7)
これを伸びと力で表して,
……………………………………(4.8)
■4−3 引張・圧縮から見えるキーポイント!
材料力学の理解を深めるには,まず問題に当たってみるのが早道です.考えているだけでは見えてこない事柄もありますし,ごちゃごちゃやっているうちに今までの知識が一気につながるということも間々あります.ともかく,やってみないと分からないものです…….
では,先ほどめくった事件簿の中から幾つか取り上げることにしましょう.
【例題4.1】
図4.1 のようなアルミニウムの段付棒に引張荷重が作用するとき全長の伸びを求めよ.ただし,l=100mm,d=15mm,W=5.88kN,ヤング率E=73GPaとする.
図4.1再 段付棒の引張り
【解答4.1】
引張荷重Wは,棒の形はどうであれ,太かろうが細かろうが,とにかく1本の棒に作用します.つまり太い軸にも細い軸にも等しく引張荷重が作用するのです(太い軸は細い軸を取っ手として,細い軸は太い軸を取っ手として荷重が作用する).したがって,この問題は棒を太い軸と細い軸に分け,各々の伸び量を合計してやればよいということになります.これをもう少し科学的に説明しましょう.
(1)原因となる力
段付棒を段の部分で2つに分け,その境界での反力をそれぞれW1,W2 します.
このとき,境界面は動かないので,互いの反力は釣り合っています(力の釣合条件/力学的条件).よって,
一方,太い部材(細い部材)は移動しないので,外力Wと反力W1(W2)は釣り合っています(力の釣合条件).すなわち,
以上から,
(2)太い部分の伸びΔL1
力と伸びの関係は,式(4.4)をΔLについて解いて該当の数値を代入すれば得ることができます.
……(A)
(3)細い部分の伸びΔL2
…(B)
(4)全長の伸びΔL
…(C)
だいたいこんな調子です.では次――.
【例題4.2】
図4.2 のように同心に配置された,それぞれ異なる材質の円柱と円筒が剛体板に挟まれて圧縮力を受けるとき,これらに生ずる応力と圧縮量を求めよ.
図4.2再 異種の円柱と円筒の圧縮
【解答4.2】
これは前問と似ているような気もしますが,実は同じようにはいきません.どこが違うかというと,圧縮荷重W は,「1本の棒…」でなく「並列した2本の棒(円柱と円筒)」に作用している点です.つまり一つの荷重を二人で分担しているために,どちらがどれだけの力を分担しているかが分からないということなのです.おそらくは圧縮に強い方がそれだけ大きな力を受け持っているに違いないと推測できますが,所詮推測でしかありません.推測で答えを決めるわけにはいきません.
そのようなことで,原因となる力が確定できないわけですから,したがって応力はもちろん結果である圧縮量も分からないということになるのです.
その意味でちょっと変った問題なのです.
そこでどうするか.それは力は分かったものとしてとりあえず形式的に答え(結果である変位)を求めてみます.そこで変位に関する条件を求め,それを力の確定作業にフィードバックしてやる,ということを考えます.
(1)原因となる力
円柱および円筒に働く力をそれぞれW1,W2とします.これらの確定した値は分かりませんが,少なくとも次のことだけは分かっています(力の釣合条件).
………………………………(D)
(2)結果でなる圧縮量
円柱および円筒の圧縮量をそれぞれλ1,λ2とします.その圧縮量は,前の例題と同様に式(4.4)に基づいて次のように求められます.
……………………(E)
(3)変位に関する条件
とりあえず答えは求められましたが,当然W1,W2が未確定ですので本当に求まったわけではありません.しかし,この段階でハッキリしている重要な条件が一つ見出されます.それは円柱も円筒も剛体板で平行に挟まれているのでどちらも同じ圧縮量だということです(変形の釣合条件/幾何学的条件).すなわち,
………………………………(F)
この変形に関する条件を先ほどの力を求めるステップに戻してやって,改めて荷重の計算をやり直してみます.
(4)続・原因となる力
式(D)だけでは決められなかった荷重 W1, W2は,幾何学的条件式(F)をフィードバックしてやることで( W1, W2に関する連立方程式を解いて)確定してやることができるのです.すなわち,
……………………………(G)
これから分かるように,荷重WはA1E1,A2E2の比率によって円柱と円筒に分配されていることが分かります.AEは伸び剛性と呼ばれますから(第3話に登場),確かに「圧縮に強い方がそれだけ大きな力を受け持っているに違いない」という推測がここで裏付けられました.
(5)応力と圧縮量
さて以上で,各々の部材に作用する力が求まったので,4−2節の公式に則って円柱および円筒に生ずる応力ならびに圧縮量が次の通り求まります.
……………………(H)
■4−4 せん断の基本問題
残念ながら,紙数がもうありません.ついつい引張の話題が長くなってしまいました.ここではせん断の問題を一つ,ザッと解くだけに致します.
【例題4.3】
図4.6 のように直径 d=60mmのポンチで厚さ h=5.0mmの板に円孔を打ち抜くとき,板のせん断強さを400N/mm 2とすればいくらの打ち抜き力 Pを必要とするか.
またポンチに生ずる圧縮応力が1000N/mm2を超えないためには板の厚さの限界はいくらか.
図4.6再 板の打ち抜き
【解答4.3】
この問題は基本的には応力に言及しながら,力の釣り合いだけを考えて解決する問題です.ところで,材料力学において力のや力のモーメント釣り合いを考えるときには,物体が変形する前の状態でその釣り合いを考えて条件式を導きます.その意味では「剛体の力学」と同様の手続きといえるでしょう.
さて,この問題における力の釣り合いは,打ち抜き力Pと打ち抜かれる穴に生ずるせん断応力τの合力が等しいときが板の耐えられる限界ということになります.したがって,
……………………………………………(I)
穴のせん断面の面積Aは,
……………………………………………(J)
よって,打ち抜き力は式(J)を式(I)に代入し,
…………………………………………(K)
打ち抜き力は,式(K)に板のせん断強さ他の該当数値を代入して,
一方,板の厚さの限界は,ポンチの圧縮応力,すなわち,打ち抜き力をポンチの横断面積で除した値が1000N/mm2を超えてはならないという要請から,
………………(L)
ポンチと板厚の間には上記のような関係があることがわかります.そして,ポンチの直径が60mmのときの打ち抜ける板厚の限界は,
(つづく)
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予告編 はりの話
次回はいよいよはりの話に移ります.はりの曲げにくさ,曲げたときの応力等,はりの強さについての話題です.改善の方法についても触れています.どうぞご期待下さい.
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