|
実践教育研究発表会と人づくり、ものづくり
―新たな体系の構築― |
|
|
|
実践教育研究発表会関東大会会長
関東職業能力開発大学校
校長 久保 紘 |
2003年度の実践教育研究発表会が、9月25日(木)〜27(土)にかけて、関東職業能力開発大学校で行われた。研究会は、大別して、一般講演、特別講演、シンポジウム、展示の4つに分かれていたが、参加人員、参加企業・団体の数、および発表の内容から判断するといずれも成功であったと思われる。
一般講演の中には、技術・学術講演以外に、本研究会を特徴づけている、「実践教育」そのものに関する発表が相当あった。教育のあり方であるとか、キャリア形成論とか、あるいは実践技術者の資格認定制度について等である。このうち資格認定制度については、私は、大学校が魅力あるものとなりかつ存在意義を世間からきちんと認めてもらうためにはぜひ必要な制度だと考えていたので大いに興味をそそられたし、また講演は大いに参考になった。特別講演では、「環境型ウッドセラミックスの製造技術とその利用」と題した講演が行われたが、以前から、人工物より自然物として存在する木の利用をもっと促進すべきだと考えていたし、講演の中のセラミックスは私の専門の一つでもあるのでこれも大いに参考になった。地球という規模でものを考える事ができる事を、学生の質を保証するための条件の一つに挙げたいと考えているので、私のみならず学生にとっても時宜を得た講演になったことと思う。
9月27日(土)には日を改めて、「ものづくりの技と心」という題で、地域を特徴づけるものづくりについて、名人や技の伝承者を招いてシンポジウムが催された。いずれも「匠の技」であり、その心根も含めて日本でなくては聞けない、伝統の上に成り立った技術や芸術であったと思う。聞いていて、2つのことが頭に浮かんだ。一つは、この伝統工芸や技術で飯を食っていけるのかなということ。もう一つは、人が豊かに暮らすということはどういう事なのかと言う事である。
元々、理屈はさて置いてという匠の技が優れていたために、日本はものづくりを中心に技術が発展してきた。しかし、水道理論で代表されるように、安く大量にという要請が、匠の技術を機械化し、経済をグローバル化し、やがて我が身に、技術の空洞化や海外への生産拠点の移動、雇用形態の変化という形で降りかかってきた。極端な例ではあるが、伝統工芸や技術では太刀打ちできない社会状況であるといってよい。我々は、技術だけではなく、経済が、そして文化が交差したところで生きざるを得ない社会に生きている。そこで、私たちが、良いものを伝統芸能としてあるいは匠の技として残しかつ生きていくためには、文化という道から攻めるのが良いのではないか。すなわち価値観の変換をする。新しい価値体系、技術体系を構築することである。そのためには、人が豊かに暮らすことの意味をよく説明し、伝統芸能の技術的側面も入れた新たなパラダイムの構築こそ必要なことである。
ガルブレイスが「強制からの解放」こそが、人間が豊かになるための条件であり、社会の指標になるといってから既に10年以上も経つ。確かに、携帯電話はその言葉を満足させるように売れてはいるが、人間と社会が豊かになった様子は未だ見えない。我々大人世代の責任でもあり、若者の主体性に期待するところでもあるが、やはり新しい社会体系を考える必要があるように思われてならない。以前に、実践教育機械系ジャーナルに「エコロジー」対「エコノミー」という文を書かせてもらったが、そこでいう「エコロジー」という理念軸が新しいパラダイム構築には必要ではなかろうか。
以上、人づくり、ものづくりを体系という観点から考え直す機会を与えてくれた本実践教育研究発表会に感謝してあいさつに代える。 |
|