ウガンダ通信No.7 アフリカにドラムを叩くロボット出現
(職業能力開発ジャーナル Vol.48 No.1 2006年 p15 海外派遣職員報告20の原稿)
アフリカにドラムを叩くロボット出現 ウガンダ国職業訓練指導員研修プロジェクト 職業訓練計画専門家 山見 豊
1.はじめに
アフリカ大陸の赤道直下、インド洋から視てケニアの西側の内陸に、人口24,400,000人の小国ウガンダがある。気候は平均標高1200mの高地であるため、年中、日本で言えば夏の軽井沢で、緑が豊で過ごしやすい。
アフリカの貧困問題は深刻であり各地で紛争が絶えない。が、ここウガンダでは、国の北部、国境沿いを除けば長期政権のムセベニ大統領の下、比較的平和でありここ2〜3年アフリカの中では驚異的な経済成長率を上げていると言うことができる。
私は昨年3月より当地に派遣され、この国の首都カンパラに在住している。任務は@第3国研修の実施 Aこの国の職業訓練指導員養成計画策定 Bナカワ職業訓練校の運営支援で教育省の建物の中と、ナカワ職業訓練校内に事務所を開いている。
そこで本年、ウガンダ国の職業訓練の高度化を目指すべく、短期派遣専門家の協力を得て、ナカワ職業訓練校で技術研修を実施することができた。この結果としてウガンダ国際産業展に研修の成果物であるロボット等を出展できたので、ここに報告する。
2.ウガンダの教育訓練事情
ウガンダは、貧困撲滅計画(PEAP)を国家政策として掲げ、2025年までに貧困を撲滅すべく政策実行を進めており、ヨーロッパをはじめ各先進国は、ドナーでこれに応じている。中でも教育訓練課題では、初等教育の無償化政策を進め、現在、その就学率は飛躍的に上昇(90%以上)、その成果を収めているところではある。 現在、この初等教育課題は、その質が問われはじめてきているが、同時に、これを修了した子供たちの行く先の問題(ポスト・プライマリー)、つまりは中等教育(前期・後期)に焦点は移行しようとしている。しかしながら、莫大な子供たちの増加とともに、今後この問題のいくえは、最終的に雇用の問題、働く場所の問題へと移行するであろうことは容易に予想される。
これに対し、政府は中等教育の計画において、より職業教育訓練を重視する方針を打ち出し、10年先には、初等教育及び前期中等教育からの進学者の半分以上を職業教育訓練に振り分けるという目標を打ち出している。しかしながら、この目標達成は、目標自体が持つ意味の問題とともに財政難、施設・設備、教授方法、人材など前途は多難である。
当方は、これらの課題解決の一端を担うべく、職業訓練指導員の養成を提案しているところである。
3.ナカワ職業訓練校
ウガンダには、国立の職業訓練校が3校(ナカワ、ルゴゴ、ジンジャ)、職業訓練センター(マスリタ)が1校ある。民間の職業訓練校、センターは300から400と言われている。
狭義の職業訓練分野といえば、これらが全てとなるが、現在、旧労働省系の教育訓練施設は教育省内に統合されており職業教育訓練局の管轄となっている。この分類でいけば技術専門学校、技術短大がさらに加わってくる。
ドイツは、かつて、ルゴゴ職業訓練校を支援してきたが、現在は民間職業訓練協会を組織し、これを通じて民間の職業訓練施設の支援を実施すると同時に、ウガンダ国の職業資格構築の政策支援及び最近では、指導員養成に意欲を示している。
わが国は、ウガンダに対し古くからナカワ職業訓練校を通じて技術協力を実施してきた。
1968年からはじまり、不幸な時代もあったが、1997年改めて、ナカワ職業訓練校プロジェクト(5年間)として再開し、フォローアッププロジェクト(2年間)を経過し、現在、近隣諸国(ケニア、タンザニア、ザンビア、エリトリア)の職業訓練指導員、技術短大の先生を集め、第3国研修をデジタルIC、電子制御エンジン、PLC(プログラムロジックコントローラ)の3コースについて展開中である。
ナカワ職業訓練校自体は、中学校卒2年間の養成訓練を実施しており、科数7(電子、電気、機械、自動車、木工、板金、溶接)、学生総数、夜間の定時制を含めると5〜600名、指導員50名を超え、養成訓練の他に向上訓練、企業からの委託訓練を実施している。
創立当初よりわが国が技術協力してきたナカワ職業訓練校の評価は、国の内外を問わず非常に高いものがある。ナカワ職業訓練校の技術・技能レベルは、ウガンダ国において一番というより東アフリカにおいて一番だと言っても過言ではないと思える。
4.短期専門家による技術研修
ウガンダにおける職業教育分野において職業訓練指導員の養成は急務であると考えその実施を提案しているところである。そこで、具体的には、これを担えるナカワ職業訓練校の職業訓練内容の高度化が必要であり、本年度、短期派遣専門家を日本に要請し、ナカワ職業訓練校の指導員に対し次の3コースの技術研修を実施した。
@メカトロニクス訓練 期間 7月27日〜8月31日 対象者 指導員8名 特別講義 第3回第3国研修受講生39名他
Aマルチメディア訓練技法 期間 8月10日〜9月7日 対象者 指導員8名 特別講義 第3回第3国研修受講生39名他
BCAD 期間 11月9日〜12月21日 対象者 指導員9名
基本的に途上国においては、物がない、金がない。特殊な部品類は現地での入手が困難だし、見つけても予算がない。このため、現地職業訓練校の実技訓練においては、インカム・ジネレーションと称し、受託実習を実施している。短期派遣専門家の皆さんには食文化も違えば、言語も違う全くの異文化の劣悪な環境の中で、それを見越しての教材の事前準備からはじまり、現地での奮闘ぶりに頭がさがる思いである。各コースの終了時には、ナカワ職業訓練校において盛大な送別会が催され、感謝の辞とともに記念品が手渡されたことを報告しておく。
5.国際産業祭にロボット出展
10月4日から10日までの一週間、ウガンダの首都カンパラの産業センターで、2005年国際産業展が国の内外の企業からの物産を集めて開催された。毎年開催されているもので、入場料を取るものの恒例の行事でかなりの人出でお祭り騒ぎとなる。メインホールは130程のブースに仕切られ、遠くは台湾、中国、タイ、近くはケニア、エジプト、インド、ドイツ、サウジなどから取引を目指し出展品が並びられた。今回、ケニアはいつものことで大量のブースを確保それに次ぎ、中国、タイがかなりのブースを確保しての出展であったことが目をひいた。
これらのブースに混じって、わがナカワ職業訓練校も1ブース確保し、短期専門技術研修の成果も問うべき、ナカワ職業訓練校の宣伝を展開した。ブースの入り口正面にロボットを配置し、マルチメディア教材をブースの中で投影、壁一面に訓練風景の写真を展示した。
ナカワ職業訓練校のブースは人気が高く、会期中終日、集まった人達で賑わった。2日目後半からサインブックを準備し感想等意見を書いてもらったが、記入していただいた数は500名をはるかに超え、その内容は、上出来、すばらしい、技術進歩を感じる、すごいとの評価であった。私達の試算では軽く一万人以上が私達のブースを訪れた。PLCでプログラミングされたロボットが動き出し、首を左右に振りながらドラムを叩くコミカルな動きに多くの人が集まり、何故か笑みが皆の顔からこぼれた。
現地の新聞は、「ナカワ職業訓練校ウガンダではじめてのロボット製作」と大きくロボット写真付きで報じた。
6.おわりに
国にしろ、企業体にしろ、その発展の鍵を握るのは、そこで働く人達、人材にあることは良く語られる事実である。
さて、日本が世界に誇れる技術は何かと言えば、自動車、ロボットをはじめ電化製品、鉄鋼等の例を上げるまでもなく、一般に製造技術ということができよう。この、ものづくり技術は、それを生み出す労働力の質の高さに裏打ちされており、大企業のみならず中小零細企業に至るまで高品質の製品を生み出している。この労働力は、つまりはそこで働いている人達の能力である。人づくり、人を大事にする日本の文化が、高品質のものづくりを生み出す。多くの企業では、ものづくりの前に、まず大きく人づくりを掲げてあると聞く。この人づくりこそが日本の誇れる技術であり、私流で言えばこれを職業訓練と呼びたいし、国際技術協力の眼目であると信じている。
ビール会社からの委託訓練・PLC(筆者中央)
国際産業祭にロボット出展 ナカワ職業訓練校のブースに集まった人たち
ナカワ職業訓練校製作 ドラムを叩くウガンダ初のロボット